「世界のガーデン」第七章:「平面幾何学式(フランス式)庭園」
第27回:「ベルサイユ宮殿」とその庭園②
引き続き「ベルサイユ宮殿」について。今回はその庭園について述べます。
「ベルサイユ宮殿」はパリの南西約22㎞の位置にありますが、近くに水源(川など)はありません。そこで、約10キロも離れたセーヌ川から水を引き込み作庭を行いました。これだけでも大変な工事であったでしょう。
この庭園部の設計・監督は「アンドルト・ル・ノートル」(1,613~1,700年)で、「平面幾何学式庭園」様式を確立した人物とも言われており、他に「デュイルリー庭園」「ヴォー=ル=ヴィコント城庭園」などがその作品としてよく知られています。
この庭園の最大の特色はそのスケールの大きさで、100万㎡に及ぶ総面積の大半を占めています。そして、この巨大さ自体が重要であった事を忘れてはなりません。宮殿から見える世界全てが庭園であり、来場者を圧倒するスケールが作庭の基本条件として求められたからです。勿論、その背景には絶対王者「ルイ14世」の意思が強く働いていました。これだけの巨大庭園を造るには約40年の歳月と36,000人の労働力が投入されたとされています(ちなみに、「ベルサイユ宮殿」本体の投入労力は25,000人程度)。まさに、空前の大工事であったという事。
庭園の基本レイアウトを見ると(「平面幾何学式庭園」の基本構成でもある)、まず中央部に「ビスタ」(軸線 or 通景線)と呼ばれる直線状の空間が通っており、全体が左右対称の幾何学的構成となっています。「ベルサイユ宮殿」の場合は、「ビスタ」の中央部を「カナル」と呼ばれる水路が十字に走り、その要所要所に池や噴水が配されています。さらに、その周辺には特有の幾何学模様に刈り込まれた植栽エリアがあり、全体が計算されつくした構成(庭園配置図参照)になっています。
また、本体となる宮殿(配置図右下)以外にも「大トリアノン離宮」「小トリアノン離宮」(配置図左上)があり、さらに庭園の外周を広大な樹林地帯が囲んでいます。庭園の主要部自体が広大であるのに、さらに樹林地帯で囲まれているため、冒頭で確認した通り「ベルサイユ宮殿」の庭園部はまさに<世界の全て>を連想させる唯一無二の空間となっています。
「ベルサイユ宮殿」の庭園でもう1つ注目すべき点は、「アポロン泉水」と言う巨大な池の存在。この池は、「ビスタ」の最後部にあり、庭園の広大さをさらに強調する圧倒的存在感を創り出しています。
最後に、(前項でも触れましたが)「ルイ14世」は民衆にこの巨大な庭園を開講しました事を付記しておきます。そこには自己の権威を見せつけると言った意思も働いていたでしょう。ただし、それだけではなく<民への優しさ>と言った一面も感じ取ることが出来きる行動とも言えます。現に、「ルイ14世」は民衆の間でも人気が高かったと言った評価が現代にまで伝わっています。
庭園の配置図
全景
ラトナ噴水
「ビスタ」周辺に配された特殊な刈込を行った植栽エリア
「アポロン泉水」・・・「ビスタ」最後部に造られた巨大な池
「アンドルト・ル・ノートル」・・・庭園の設計・監督。当時最も著名だった作庭家
庭園の全体イラスト(1,668年作画)・・・作庭当初の姿が分かる貴重な資料
「ベルサイユ宮殿」の所在地