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2:伝統工法の理論と在来工法の実態
2-2 在来工法とは何か
在来工法に潜む危険性①
現在のプレカット加工はあくまで機械加工のため、継ぎ手の種類も限られています。強固で複雑な伝統的継ぎ手は用いていません。肝心な継ぎ手個所に対し、密着させ締め付けるための工夫を凝らした伝統的加工をあとで施すわけでもありません。
間取りと梁間によって梁成を決定した桁や梁を配置しますが、継ぎ手の種類も継ぐ位置も適正さを欠いている建物も見受けられ、その部材仕口も組んで打ち込むほどに締まる納まりではなく、組みやすさ優先の為かやや緩めに作られているようです。その分、継ぎ手の補強として羽子板ボルトを使ったり、その他の表面金物で補強する仕様となっています。
例えば、羽子板ボルトは表面金物であるため、締めるほどに偏心力が強まり、部材を引き付けるよりはむしろ、引き付けようとする横梁材のボルト穴を裂こうとする力に変化してしまいます。補助金物として使うなら壺掘りして横材の芯で引き付けるのが正解です。
壺掘りボルト締め
さらに在来工法は間柱に筋交いや合板面体を施し、揺れと変形に対して壁面を順次固めていきます。
こうした壁面の剛性補強に力点を置きすぎたためか、今度は水平面をもっと固める必要が指摘され、最近では床板に24㎜以上の厚貼りの構造合板を敷き並べ、全体の剛性を高めようとしています。軸組の考え方では、本来大引きと根太を組み込むことで水平剛性をしっかり出すという考え方でしたが、今では厚張り合板に頼って剛性を出すのが標準仕様になってきています。
いわゆるツーバイフォー工法の理論原理である「面の剛性」を目標として、結局、弱そうな箇所をすべて金物と面板で補強しようとしているだけになってしまっているのです。
根太を乗せただけで厚張りの合板敷設
筋交いの押す力で隅柱が外される
筋交いを入れた壁面も耐力壁とされ、法規上何ヶ所かは入れることが規則になっています。その筋交いが建物にとって変形を防ぐポイントとなる壁面場所に適正な方法で組み込んでいるならばまだ効果もありますが、あくまで間取り優先で開口部の位置が優先されるため、無難な箇所に必要とされる数合わせで入れている場合もあります。
さらに困った問題は、筋交いにかかる力が最終的に流れ込む土台の継ぎ手部分に、その力を受ける十分な木の肉厚が残されていないというケースが多いのです。
特に隅柱が建っている部分は柱の「ほぞ」が入っており、筋交いの押す力を受ける短い繊維厚は引きちぎられて隅柱が外れてしまう可能性があります。このような在来工法と呼ばれるものには、もはや一貫した伝統工法の軸組力学の理論が重要なポイントで生かされていません。むしろ壁組工法としてのツーバイフォー工法の方が、使用基準が明確に管理され、はっきりした制約の中で施工も押し進められています。
事実、阪神大震災でツーバイフォー住宅のほうが全壊を免れたというデータもあります。この事実を単純に受け入れ、震災後の在来工法の流れをさらに金物依存と面材依存志向へシフトさせていったように思われます。建物は揺れるというのが大前提であり、その揺れを建物全体に伝えて木材の柔らかな吸振力とバランスの良い木組み配置で復元力を発揮するのが本来の伝統軸組工法の原理なのです。在来工法と呼ばれる建物は既にこの原理から乖離して、今や金物と合板面体に頼って建てられている別工法と言わざるを得ません。