「杉」語り(スギ がたり)①
「杉」について少しだけ話したいと思います。それだけのロマンと魅力を持った木であるから。えっ「杉なんてどこにでもある」って。その通りです。「日本中杉だらけ」と言っての過言ではありません。そればかりか、最近は花粉症の原因にもなり悪者扱いされる事さえ。
でも、それは日本限定のお話。地球規模で見れば希少でかつ奇跡ともいえる木なのです。
まずはそのあたりから・・・
<奇跡の木「杉」>
1:「杉」は希少種
<「杉」は奇跡の木>と言えば大げさに聞こえるかもしれません。でもこれは事実です。「杉」を学術的に分類すると<ヒノキ科(スギ亜科)スギ属の針葉高木となります。学名は「Cryptomeria japonica」。そして、ここから2つの真実が見えてきます。
1つ目の真実:「スギ亜科」または「スギ属」に属するものは極めて少ないと言う事。北米の「セコイア」「ラクショウ」。中国の「メタセコイア」「コウヨウザン」。そして日本の「杉(スギ)」。この程度です。さらに不思議なことに、その自生地がバラバラに散らばっていると言う点。果たしてその意味は?
2つ目の真実:学名に「japonica」と記されていると言う点。勿論これは、<日本の固有種 or それに近い種>である事を表しています。
日本の「杉」
中国の「メタセコイア」
北米(メキシコ)の「ラクショウ」
2:セコイアと言う生きた化石
前述のごとく、「杉」の仲間に「セコイア」と言う樹木が含まれています。この樹木の正しい名前(学名)は「セコイア センペルビレンズ」で、「レッドウッド」と通称されることも。
そしてこの「セコイア」、1億年以上前には「セコイア」の仲間が北半球を覆っていた・アメリカ原住民に<神の木>と崇められていた・樹高世界一(100m以上に達する)のスーパー巨木&長寿木・現在はカリフォルニア州のレッドウッド公園内だけに自生する希少種・・・と言った曰く付きの植物でもあります。しかも、「セコイア」の直系として現存するのは「セコイア センペルビレンズ」のみ。
さらに、木材(現在は栽培木のみが伐採可能)としても最高品質とされ、特に芯材(赤身)は<極めて腐りにくい木>として世界的に有名。
以上を考慮すると、<「杉」と「セコイア」は近樹種>と言うより、<絶滅危惧種「セコイア」の生き残りが「杉」とその仲間>と考えるべきでしょう。だからこそ、世界各地に「杉」の仲間がわずかに点在しているのではないでしょうか?
「セコイア センペルビレンズ」(通称「レッドウッド」)
3:「杉」の神秘性・特性
従って、日本列島で「杉」が生きていること自体が不思議な巡り合わせ。しかも、これだけの繁栄を見せていると言う事実は<奇跡>と呼ぶにふさわしい出来事だと言えます。
では、「杉」の特性とは?
1:長寿であり巨木となる・・・長寿と言う面では屋久島の「屋久杉」が何よりの証人。その代表が「縄文杉」で樹齢2,500年以上とも・・・
2:垂直性(上に真っすぐ伸びる)・・・「杉」と言う名前自体が<真っすぐ>と言う意味から来ていると言う説も。
3:芯材(赤身)と偏材(白身)の相違・・・成長するに従い、芯材(赤身)の比率が大きくなり、この部分は腐朽菌やシロアリに非常に強い。そして、1・2・3の特性はまるで<「セコイア」の血(遺伝子)をそのまま受け継いだ>ようにも感じます。一方、樹皮近くの色が白い遍材は決して耐久力のある木とは言えません。
4:軽く柔らかい(気乾比重0.38前後の材が多い)・・・このため風合い(肌ざわり、等)が優れている。ただ、強度面では弱い部類に属する。また、一定年齢に達するまでは成長が早い。
5:産地(地域)差が大きい・・・産地、あるいは同一産地でも生育場所によりかなり木材の性質が異なると言われています。理由は不明ですが、杉材を完全に使いこなすには<高度なプロに知識>が必要だと言う事でもあります。
この他にも、「杉」には多くの特性があります。ただ、煩雑になりすぎても意味がないため割愛します。いずれにせよ、樹木としての「杉」、そこから木材として加工された杉材共に、その本当の姿を見つめると、極めて魅力的かつ神秘的な存在であることが分かります。
長寿の象徴とも言える「縄文杉」・・・樹齢2,500年以上と言われている。ただし、縄文時代からと言うのはさすがに伝説。
「杉」の原木・・・成長と共に芯材(赤身)の比率が増し、その部分は非常に腐りにくい。
つづく