• 「木」語り 連載第14回

    第三章:日本の森林事情

    10:自然林の分類・分布

     このコーナーでは、日本の樹林帯とその種類を提示しておきます。世界の樹林帯に関しては、「針葉樹林帯」と「広葉樹林帯」に大別され、さらに「広葉樹林帯」は「落葉樹林帯」「硬葉樹林帯」「照葉樹林帯」「熱帯雨林帯」に大別されると述べました。そして、以上のうち日本には「針葉樹林帯」「落葉樹林帯」「照葉樹林帯」の3種があり、「硬葉樹林帯」と「熱帯雨林帯」は存在しません。

     「硬葉樹林帯」が存在しない理由は、日本で比較的暖かい地域は雨が多く、湿度が高いため(「硬葉樹林帯」は温暖かつ降雨量が少ない地域に出来る)。「熱帯雨林帯」が無い理由は誰でも分かる通り、日本には熱帯エリアが存在しないためです。ただし、沖縄などは亜熱帯に近い気候で「熱帯雨林」によく似た樹林帯が一部にあります。

     それでは、日本に存在する「針葉樹林帯」「落葉樹林帯」「照葉樹林帯」について詳述しておきます。

    <日本の「針葉樹林」>

     実は大規模な自然林=森の「針葉樹林」もしくは「針葉樹林帯」は、前述のごとく日本にはごくわずかしか存在しません。気候が温暖過ぎるからです。従って日本の「針葉樹林」は大部分が人工林=林で形成されています。

     ただ、北海道の北東部には「エゾマツ」「トドマツ」「カラマツ」「アカエゾマツ」などの森が広がっており、その殆どが森林管理局等により保護されています。

    また良材で有名な「秋田杉」は自然林=森からの産出です。その他、高山地帯には「ハイマツ」などの低木のみで構成される「針葉樹」の森エリアもあります。

    この他、「モミ」「ツガ」「アカマツ」「ヒノキ」「スギ」などは比較的温暖なエリアにも広く分布し、これらの針葉樹で構成される「針葉樹林」は日本の各地に広がっています。その代表の一つが木曽(岐阜県・長野県)地区の広大な「針葉樹林帯」です。そして木曽の樹林帯には、木曽五木(「ヒノキ」「サワラ」「アスナロ」「ネズコ」「コウヤマキ」)などの有名な「針葉樹」も自生しています。ただどこまでが森でどこまでは林なのか判然としません。他の温暖なエリアに関しても、森か林かよくわからない小規模「針葉樹林」も散見されます。

    従って、東北中南部より南西部の日本では、広大かつ明確な「針葉樹」の森は存在しないと解釈すべきでしょう。

     既に提示の通り、日本には約2,252万haの森林があり、このうち55%(約1,250万ha)が「針葉樹林」です。ただその約80%が人工林である為、逆算すると約250万ha(全森林の約11%)が天然の「針葉樹林」と言う計算なります。しかし既述の通り、明確に自然林=森と言える「針葉樹林帯」は北海道・東北の一部、それに高山地帯などに限定されていると言う事。

     その他の比較的温暖なエリアの「針葉樹林」に関しては、森と確定できる「針葉樹林」はごく稀で、広大な林のごく一部に森が残されているのみ。そう解釈すべきでしょう。

    トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツを主体とした亜寒帯針葉樹林 

    画像:北海道森林管理局/保護林 (maff.go.jp)

  • 「木」語り 連載第13回

    第三章 日本の森林事情

    9:日本の森林 ②

    B:<山≒森林>と言ったイメージが強い

     日本人であれば多くの人が森林と言えば山をイメージするのではないでしょうか。従って、自然に生息している樹木の大半が傾斜地に生えていると。おそらく子供たちに森林を描かせてみても、同様の作品となるでしょう。

     でも世界では少数派。大半の森林が平地かなだらかな丘陵地であるからです。

     では<山≒森林>と言う特有の事情は日本の森林にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。答えは明確で、森林の開発・都市化を遅らせる結果となりました。たとえ山の開発を進めても、人工林=林に変える事が大多数を占め、自然林~人工林への移行はあっても、森林自体の消滅はごくわずかであったと言う事。

     産業開発・都市化と言った視点で観るとそれは大きなマイナス要因であったかも知れません。しかし、地球温暖化問題にあえぐ現代においては、それが他に代えがたい財産となった事は周知の通り。

     では、林業・木材業と言う視点では。この件に関する見解は複雑だと言わざるを得ません。

    <山≒森林>のメリットとしては、農業を含む他産業の進出を遅らせ、里山と言う日本特有の開発形態・文化を生み出しました。それは同時に林業の敗退を防止する要因ともなったからです。他産業と比べるとひ弱と言わざるを得ない林業は、もし日本の森林の大半が平地であったならば、今以上にその存在を脅かされるようになっていたでしょう。最も、一部では林業の企業化・大型化が進み、成功者が現れた可能性もありますが・・・ 

    いずれにせよ、森林面積ははるかに小さなものとなっていたでしょう。

     <山≒森林>のデメリットに関しては、森林面積の維持には貢献したものの、森林(主に林)管理・維持費のコストアップ、労働の過酷化などに繋がっていると言う点。

    コスト高に伴い外国勢の進出許し、同時に林業と言う産業の弱体化の主要因となっていると言う事実を見逃すことは出来ません。

     ただいずれにせよ、あらゆるものにはメリットとデメリットがあります。<山≒森林>と言う特有の事情も同じです。従って、私たちはもっと知恵を出し合って、産業面での林業・国産木材を使った木材関連産業の育成に取り組む必要があります。なぜなら、膨大な人工林が不健康な状態に至り、結局は面積だけは自慢できても、瀕死の森が増えてしまう事になるからです。ただ、この件に関する検証は後項に譲る事にします。

    吉野の山(奈良県吉野郡吉野町)・・・吉野の山は桜の名所であると同時に、日本を代表する木材産地でもある。いずれにせよ、日本の森林は大部分がこのような山岳地帯にある。

  • 「木」語り  連載第12回

    第三章 日本の森林事情

    9:日本の森林

     日本は世界第二位の森林大国(森林の比率が高い)である事が分かりました。でも日本の森林は実際にはどのような規模で、どのような特性を持っているのでしょうか。確認して行きます。ただここでは自然をベースとしたものを主体として、社会的要因に関しては項を改めて詳しく検証する事にします。

     まずは日本の森林の大きさ(全面積)から。

     日本の総面積をご存じでしょうか。そう、約3,710万ha。そのうち約68%が森林と言う事で、日本にはおおよそ2,520万haの森林が存在すると言う事。しかも、(内容はともかく)面積自体は殆ど減少していません。最も2,520万haがどれほどのものか想像するのは難しいでしょうが・・・

     と言う事で、広大な国土と森林を持つカナダと比較してみましょう。

     カナダの国土(総面積)は約10億ha。何と日本の約27倍の広さがあります。勿論世界の森林事情のコーナーでも触れた通り屈指の森林国です。では実際の森林面積は。森林比率33.6%で、約3.4億haと言う事になります。となれば日本の森林規模はカナダの約7.5%。

     ナ~ンダやっぱり日本の森林なんてチッポケ。そう思われるでしょうか? 筆者は逆です。あの広大なカナダと森と比較しても、わずかな国土しかない日本の森はカナダの7.5%もの規模に達する。そんな印象を受けます。

     その他の特色としては、A:樹種が多く多様性に富んでいる B:<山≒森林>と言ったイメージが強い・・・この2点を上げることが出来るでしょう。

    A:樹種が多く多様性に富んでいる。

     あるデータによると、日本にはおおよそ210億本の木があり、約1,200種の樹木が自生しているとの事。世界には約8,000種が存在するとされており、そのうちの15%が日本にあると言う事になります。ただこの数値は、いくら日本の森が多様性に富んでいるとはいえ、疑問を持たざるを得ません。おそらく、1,200種の中には相当数の外来種が含まれているのでしょう。

     ただいずれにせよ、日本の森林は諸外国と比較しても非常に樹種が多い事は間違いありません。その最大の理由は、日本列島は細長く、亜寒帯(あるいはそれに近い)~亜熱帯(あるいはそれに近い)までの気候が併存しているからです。

     上記は平面上の分布特性ですが、日本の<森≒山(後述)>と言ったイメージが強く、高度による樹種変化も各所で見られ、屋久島などでは亜熱帯性の樹木~冷涼地域の樹木までが併存しています。

     もう少し日本国内の森林事情を見ると、林野庁等の資料では、約2,252万haの森林中、おおよそ55%(約1,250万ha)が針葉樹林・45%約(1,250万ha)が広葉樹林で、若干針葉樹林の生息面積の方が広いようです。ただし正確な数値は不明ですが、針葉樹と広葉樹の混成林も一部存在します。

     補足するなら、日本は(当然の事ながら)人工林=林の比率が高く、約1,000万ha・全森林面積の約45%に相当します。そして人工林=林のほぼ全てが針葉樹林。従って、自然の森林=森に限定すると約80%が広葉樹林・約20%針葉樹林となっています。

     また森林全体では針葉樹林の方が前述のごとく若干広いわけですが、そのうちの80%が林で、針葉樹林の中で森と表現できる部分はわずか約11%と言う事になります。

    「白神山地」(秋田県~青森県、世界遺産)・・・「ブナ」を主力とした落葉広葉樹林が広がっている。