「木の文化」は、まだ生きている(飴村雄輔著) 連載第8回

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2:伝統建築の理論と在来工法の実態③

 

2-1 伝統的木造軸組工法の考え方とその理論③

 

第三の重要な要素は、主要建築物の小屋組(屋根組)が剛性の強い作りになっていると言うことです。剛性と云っても柔軟な立体構造でしっかりとくみ上げており、屋根瓦などの重量をかけて押さえ込み、継ぎ手をしっかり密着させ、その負荷を均等に各柱に伝えて建築物全体の変形を制御する役目をしているのです。

寺社仏閣や民家は屋根組が異様に大きく、頭でっかちで、いかにも不安定のように映りますが、実はこれが最も力を発揮する需要な構造体なのです。

特に、寺院建築などでは、瓦を含めた屋根全体の荷重はかなり大きくなるので、柱と梁の継ぎ手などは斗(ます)や肘木(ひじき)を多様に使って美しい組み物を施しています。

この組み物も単なる装飾ではありません。本来は、柱に集中する荷重を全体に分散させるための重要な役割を果たしている部材です。

寺院の格によって、これを何段にも重ねて建物を美しく豪華にみせるのも一つの目的であったようですが、力学的には、斗組等の組み物の力を分散することで隅木や垂木を長くせり出して、軒をより一層深くとることができ、そのひとまわり大きな屋根組がさらに建物全体を抱き込むように守る役割を果たしている構造になっているのです。

すなわち伝統軸組み工法とは、木組み全体で常にバランスをたもたせようとする「総持ち」の考え方なのです。

写真-05伝統木造建築に共通する大きな屋根組

 

 

 

 

 

 

伝統木造建築に共通する大きな屋根組

写真-06斗組物で垂木を2段にせり出した深い軒の寺院建築 (1)

 

 

 

 

 

斗組物で垂木を2段にせり出した深い軒の寺院建築

 

 

一般に屋根形状は切妻式、寄棟式、入母屋式などがありますが、特に寄棟式や入母屋式は「隅木」が組み込まれた構造になっており、剛性の強い力を発揮します。

二次原材料である筋交いは使わないのに、三次元斜材である隅木をうまく有効に使っています。さらに太い丸太梁などで屋根重量を支え、屋根組全体がしっかり組み込まれているので、それを支える桁や柱もできるだけ小屋組全体の内側で荷重を受け、軒も深くして外壁を吹き降りから守っています。その分できるだけ外壁周りを解放できる構造体に作り上げ、通気性の良い間取りと重厚で美しい立ち姿を実現しています。

図-09木造家屋建築の主な屋根形状

 

 

 

 

 

 

木造建築の主な屋根形状

 

図-10寄棟屋根と入母屋屋根に組み込んでいる隅木-01

 

 

 

 

 

 

 

図-10寄棟屋根と入母屋屋根に組み込んでいる隅木-01+(1)

 

 

 

 

 

 

寄棟屋根に組み込んでいる隅木

 

 

数百年の歴史を刻んでいる伝統木造建築といわれる建物は、このような基本原理でほぼ満たされています。この木組の原則を実現しているからこそ、何百年もの期間、驚異的な「復元力」で耐えてきたのではないかと思います。

軸組み構造部材の力の伝達原理についてもっと詳しく観察してみると、そこには、さらに木材の特性を知り尽くした知恵が見えてきます。

写真-07民家にみられる大きな隅木 (1)

 

 

 

 

 

民家に見られる大きな隅木

 

図-12木材の持つ異方性

 

 

 

 

 

 

木材の持つ異方性

 

部材の継ぎ手に確かな伝達力があるかどうかは、継ぎ方と継ぐ位置も重要なポイントとなりますが、伝達力そのものはお互いの継ぎ手内部の応力のかかる部位の面積と肉厚とその密着力によって決まります。そして、継ぎ手のつくりも、深く押し込めば押し込むほど、お互いの部材がまるで吸い付くようにかみ合っていくように作っているのです。

木部材の最も強い部分はその肉厚に対して圧縮力がかかる方向です。木材は繊維の塊ですから力学的にも3方向各々に性質の違う異方性を持っています。この原理を利用して、伝統的な継ぎ手の形はすべて創意工夫されています。特に木口面(縦方向)への圧力は強大で、「木は突っ張りの力を利用する」これは当時の大工の力学の大原則でした。木材は引っ張ったり曲げたりするより、突っ張りあう力がけた違いに大きいのです。

図-11突っ張りあう木の継ぎ手の原理 どこで継ぐ?-01

 

 

 

 

図-11突っ張りあう木の継ぎ手の原理 どこで継ぐ?-02

 

 

 

突っ張りあう継ぎ手の原理