「世界のガーデン」第七章:「平面幾何学式(フランス式)庭園」
第54回:「チャッツワース・ハウス」と庭園
イギリスの「平面幾何学式(フランス式)庭園」を紹介中。今回は、「ハンプトン・コート」に続き「チャッツワース・ハウス」を取り上げます。
「チャッツワース・ハウス」はイギリスの主要部を構成するグレート・ブリテン島の中東部イースト・ミッドランドの中核都市の一つ、ダービーシャーにある歴史的建造物。当然その歴史も古く、ハードウィックのベスと通称されていた「エリザベス・ハードウィック」が、1,553年に建造を開始し1,560年に完成。その後、軟禁状態にスコットランドの「メアリー女王」の身柄が預けられたこともあり、より知名度が増したとも。
「チャッツワース・ハウス」はその後何度かの改装が施され、現在の建物は「エリザベス・ハードウィック」の子孫で初代のデヴォンシャー公「ウィリアム・キャヴェンディシュ」(1,640~1,707年・写真参照)時代に建築家「ウィリアム・タルマン」により1,686~1,707年にかけ大改築され、それが元となっています。ただし、1,820年にも増築記録があり、現在の「チャッツワース・ハウス」は当時の姿よりスケールアップしていると見て良いでしょう。
また、1,872年には明治初期に欧米諸国を歴訪したことで広く知られている、<岩倉使節団>も同ハウスを訪問し、その壮麗さ・部屋の多さ・蔵書の多さ・ワイン貯蔵庫のスケールなどに圧倒されたと言う記録が残されています。
一方、当シリーズのテーマとなる庭園に関しては、まずその巨大さに圧倒されます。「チャッツワース・ハウス」はダーウェント川沿岸にあり、面積は42ヘクタールに及びます。しかも、欧米の庭園には珍しく14キロに渡り石塀で囲われています。
そして、当然の事ながら1,600年代後半に造られた当時の庭園は「平面幾何学式(フランス式)」で、幾何学的な整然としたものでした。しかし、イギリスでは1,730年頃から幾何学的な庭に批判が興り、自然観を重要視した「風景式(イギリス式)庭園」が登場します。「チャッツワース・ハウス」もその影響を受け、第4代デヴォンシャー公爵「ウィリアム・キャヴェンティッシュ」が従来の庭を一掃し、「風景式庭園」に造り変えてしまいます。その後も1,928年から随時手が加えられ、高さ90メートルまで達すると言う「帝国噴水」・ロックガーデン・大温室などが加わり今に至っています。従って、創建当初の姿を根拠に、「チャッツワース・ハウス」の庭園を「平面幾何学式(フランス式)」の分類に組み込みましたが、今見る姿は「風景式(イギリス式)庭園」の印象が強い事を補足しておきます。
なお現在は、「チャッツワース・ハウス・トラスト」と言う組織が管理しており、広大な庭園を回遊し、建造物に足を踏み入れると、30もの豪華な部屋・それに付随するバロック様式の装飾・圧倒的な絵画コレクションを満喫できる、人気の観光スポットとなっています。
ダーウェント川沿岸に佇む「チャッツワース・ハウス」
庭園全景:作庭当初は幾何学式であったが、現在は自然重視の庭に
入り口付近
正面の階段
ダイニングルーム
彫像ギャラリー
肖像画:初代のデヴォンシャー公「ウィリアム・キャヴェンディシュ」
東ミッドランドエリアの中核都市